米・アイロボット社から、2015年9月19日にアメリカで発売となり、日本では10月10日に正規輸入代理店・セールスオンデマンド社を通じて発売となった、「ルンバ980」です。
これは、最新の「900シリーズ」ということになり、「980」は、現在唯一のそのシリーズということになります。
900シリーズの特徴は、
- 光学カメラでの撮影による室内地図の作成と、走行ルートを記憶(「VSLAM」)しての、1箇所を原則1度の通過で掃除を終える方式の採用
- Wi-Fi通信機能の搭載で、時刻予約機能等をスマホで操作・確認
- 本体頭脳の高性能化で、従来上位バージョンにあった "ライトハウス機能" の廃止+バーチャルウォール発生装置が新型に
- 絨毯上での吸引力がアップする "カーペットブースト" モードの採用
- 最長稼働時間が従来比2倍の2時間に
ということになります。
そのそれぞれには解説が必要ですが、実はそれら以外は基本的に800シリーズと共通です。
なので、モデルチェンジとなったとは言え、すごく難しい話である訳ではありません。
システムナビゲーション
まず、上記の「1」ですが、ロボット掃除機には、一見ランダムに室内を動き回って掃除をする "ランダムナビゲーション" 型と、カメラ等センサーにより室内地図を作製し、同じ場所を出来るだけ通らず掃除を終える "システムナビゲーション" 型に分類されます。
両者は一長一短であり、"ランダムナビゲーション" 型は、同じ場所を何度も通ることで、ゴミを残さず吸い込む可能性が高く出来ています。
ロボット掃除機は全て充電式で、しかも自走する必要までもがあるために、吸引力はかなり低いです。その為、この方式は原初的ではあるものの、合理性はそれなりに高いです。
それに対し、"システムナビゲーション" 型は、同等面積における掃除の終了が早く、そうであるが故に、広い場所の掃除が可能です。
しかし、高度・高価な電子装備が必要とされる上に、原則1度しか同じ場所を通らないため、原理的に吸い残しを生じさせやすいです。
800シリーズまでのルンバは、一貫してランダム型でした。しかし、今回の900シリーズでは、方式を乗り換えています。
これにより「980」では、1度の充電で185平方メートル(約112畳)までの掃除が可能となりました。従来は一応25畳でしたので、約4.5倍の面積が清掃可能となっています。
しかし、従来は "平均して4回、あらゆる角度で走行" が大きな宣伝文句となっていましたが、それは一体なんだったのか?という話となってしまっています。
時刻予約機能等をスマホで操作
今回の「ルンバ980」では、Wi-Fi(無線通信)を使って、スマホでの運転時刻予約や 電源のON/OFF、動作状態のログ表示が可能となっています。
しかし、このスマホによる操作は、シャープ・ココロボ「RX-V200」でも可能でしたし、ダイソンが発売を予定している「360 eye」にも付く予定です。
この機能があると、本体に液晶画面やボタンを載せずに済むので、すっきりさせることが可能です。
その為、高級機では単にこれが普通となって行くかもしれません。
"ライトハウス機能" の廃止+バーチャルウォール発生装置の変更
"ライトハウス機能" は、バーチャルウォールの上位装置 "お部屋ナビ" による機能で、ルンバに複数に分けた空間を、1箇所づつ集中して掃除するよう指示することが可能です。
しかし、900シリーズでは、光学カメラで周囲を把握しつつ、存在が確認できる部屋(空間)をすべて隈なく回りますので、空間を区切って集中的に掃除させる必要がありません。
また、残った "(オート)バーチャルウォール" も、デザイン&機能が変更されて "デュアルバーチャルウォール" となっており、形はお洒落な四角柱となっています。
機能は、従来の普通の赤外線放射機能に加えて、その周辺直径120cm程の侵入不能地帯を作る機能(「HALO」モード)が加えられています。
これは、ペットのエサ用の皿を保護する等が、具体的な用途として考えられているようです。
絨毯上で吸引力2倍&最大稼働時間・2時間
ルンバの1度の通過で掃除を終わらせるために、絨毯上では吸引力を800シリーズの2倍(600,700の10倍!)にアップする "カーペットブースト" モードが採用されています。
もっとも、それでも1度しか同じ場所を通りませんので、それで吸い逃せば、そのゴミはその場に取り残されることになります。
また、吸引力が2倍になれば、排気量も2倍になって、部屋の隅々(※基本床面以外)で眠っているホコリを舞い上げるリスクが高まりますし、元々うるさい運転音も更に大きくなる可能性があります。
2時間という従来比2倍の、ロボット掃除機としてはかなり長い稼働時間に関しては、カーペットブーストが働かない場合のみとなります。
その為、仮に室内が一面絨毯であれば、稼働時間はもっと短くなります。
ただし、「980」にはバッテリー切れによる掃除中断ポイントを記録してホームベースに戻って充電し、その地点から掃除を再開する機能があります。
なので、例え稼働可能時間内に掃除を完了できなくても、一応問題はありません。
900シリーズの意味
従来、吸引力の低いコードレス掃除機としてのルンバの清掃力を支えるものは、やはり、"平均して4回、あらゆる角度で走行" することでした。
iRobot社のコリン・アングルCEOも、以前は、
コード付きキャニスター型の1,000Wという吸引力が強い掃除機でも、1回の走行だけではゴミは取り残す
ロボット専業メーカーだからこそできることがある - "ルンバの生みの親"iRobotコリン・アングルCEOが語るロボット掃除機の未来:マイナビニュース
とごもっともな話を述べていました。
にもかかわらず、ルンバ980では、それが原則一箇所・一回走行となってしまっています。
勿論、清掃性能が劇的に上がっていれば、それでもまだマシでしょう。
しかし、絨毯上では吸引力を2倍(※吸引力が5倍で、集塵性能が1.5倍程度)にする機能が付いたものの、通常は変化なしです。
また、旧来の "ランダムナビゲーション" だと、わざと壁に沿って走行して入り込めるスペースを見つけることが可能ですが、"システムナビゲーション" だとそういった場所にたどり着けない場合があるようです。
その為、従来より遥かに広い場所の掃除が可能となったものの、ある地点における掃除性能そのものは低下したはずです。
米・CNETによる比較テスト
実は、既に発売となっているアメリカのCNETが、ルンバ980,880を含めての比較テストを行っています(※アメリカでは、リチウムイオンバッテリー型の「885」は未発売)。
それによると、カーペットブーストが余程有効だったのか、ペットの毛には「980」の方が強かったようですが、米粒と砂ではやはり「880」の方が勝っています。
また、深刻な問題として、同じ "システムナビゲーション" 型で、同方式を代表するメーカーであるNeato(ネイト)社の「BotVac(ボットバック)85」には全敗しています。
ルンバとボットバックでは、ルンバの方が走破力が若干高い可能性がありますが、ボットバックの方がD型の独特の外形を採用している分、部屋の隅&角に強いです。
また、同じ "システムナビゲーション" 型であるとは言っても、ルンバは光学カメラを用いているので、暗闇と直射日光の床での反射に弱いはずです。
しかし、ボットバックはレーザー型なので、その欠点がありません。
更には、本来この方式はカメラ型の方が安価(ルンバ980:899.99ドル)であるはずなのに、レーザー型のボットバック(定価:約449〜499ドル)に価格で大負けしています。
なので、他の部屋で行えば別の結果が出るかもしれないとは言え、ボットバックに負けているのは大問題です。
両方式の併売
新方式ルンバ「980」は、"フラッグシップモデル" 、"史上最高の性能" 等と謳われていますが、実は「880」を凌ぐモデルである訳ではなく、従来のルンバでは対応できなかった面積に対応する "広域対応型ルンバ" であると言って良いのではないかと思います。
実際、YouTubeにある上に貼った動画のような広大な家では、従来ルンバ1台では対応が不能でした。
従来型では、"お部屋ナビ" が付属する最上位タイプのルンバであれば、それ(お部屋ナビ)を2つ同時に使う場合に、15分間(25%)の稼働時間延長があり、その場合には3LDKの実質床面積の30畳(25畳×1.25)に届きます。
これは勿論、アメリカを初めとする世界各国で共通で、それらにおいては狭すぎやしないかと思えますが、日本の室内で必要とされるのは、せいぜいそのレベルの面積の清掃であるはずです。
もっとも、テーブル等の障害物が多い場合には、その面積を十分に掃除するのは難しいかもしれません。しかし、障害物で間取りが複雑になっている場合には、"システムナビゲーション" の方がそもそも不向きですので、結局は同程度の適性であるのかもしれません。
つまり、「ルンバ980」の900シリーズは、日本における適性はかなり低いと思われます。この新シリーズが想定するのは、あくまで "お屋敷" のような家なのです。
ただ、ルンバは意外とうるさいですが、新シリーズであれば、方式上掃除は早く済みます。なので、その方が良い方には、そちらの方が良いかもしれません。
しかし、新型はシステムが高度である分で、885の約1.5倍と高価(定価:税別125,000円)になりますので、日本の家屋で使うのであれば、普通は800シリーズで十分でしょう(※⇒お勧めは「871」)。
※価格は変動します。時価はリンク先にてご確認下さい。
・ルンバ980 | |
・楽天 ・amazon ・楽天レビュー:レビュー(_件)を参照 ・ヘッド形状:パワーブラシ(+サイドブラシ) ・吸込仕事率:未公表/対応床面積:約112畳 ・自動充電機構/時刻予約機能 ・本体重量:3.9kg /運転音:未公表 ・サイズ:直径35.3cm×高さ9.2cm ・3時間充電・最大120分可動 ・リチウムイオン充電池(約1,250回充電) ・段差乗り越え:2.0cm程度 ・色:ブラック ・デュアルバーチャルウォール×2付 ・[交換用フィルター×2+サイドブラシ×2付] | |
関連ページ:
・東芝・トルネオロボ VC-RCX1,VC-RVD1,VC-RV1
・シャープ・ココロボ RX-V95A,RX-V70A/RX-V200
・HOM-BOT(ホームボット)スクエア VR6260LVM
・ブラーバ380j/371j(拭き掃除専用)
・お掃除ロボット比較(選び方講座)
関連サイト:
・【オトナのガジェット研究所】スマホ操作の実現で生活が変化!? 新型ルンバをレビュー(RBB TODAY)
・大切なのは技術より“使う人にとっての価値”――開発担当者に聞く「ルンバ980」(ITmedia)
・ロボット掃除機iRobot ルンバが丸い理由とは? 最新機種「ルンバ980」製品開発責任者インタビュー(Engadget Japanese)
・お掃除ロボのルンバがWi-Fiとカメラを搭載、新型「ルンバ 980」は一体何がすごいのか?(GIGAZINE)
・iRobotが『ルンバ980』を発表。内蔵カメラによる画像解析で基本動作を一新、スマホアプリにも対応(Engadget Japanese)
・朗報:猫がのったらどうなる?“目”を獲得した「ルンバ980」の気になるところ(ITmedia)