「CV-SA700」は、日立から2014年7月19日に発売となった、新型のサイクロン掃除機です。シリーズ名としては "パワーブーストサイクロン" と呼ばれ、これはその最上位機種ということになります。
その特徴としては、日立製最上位ヘッド "スマートヘッド" を装着しており、フィルター性能も家庭用掃除機としての最高性能の一つです。
サイクロン部に関しても、今年度からは一応まともな遠心分離構造を備えていますが、それは決して本格的なものではなく、数年遅れでシャープやパナソニックと似た中途半端な物を作ったに過ぎません。
※評価はおおよそのものです。
▼ ヘッド (5)
この「CV-SA700」のヘッドは、"スマートヘッド" と呼ばれる日立製の最高性能ヘッドです。
これは、日本製の大抵の他メーカー製の最上級ヘッドと同様に、フローリングの菌までその内蔵回転ブラシで拭き取る性能があるとされています。
また、ヘッド幅が30cmと、シャープ製と共に例外的な広さを誇り、一度に広い面積を掃除できるよう作ってありますが、カーボン素材を用いることと、余分なスペースをなくすことでの軽量設計となっています。
以前のモデルでは、ヘッドを手前に引く際には、どんな掃除機にも吸込口後方に大抵付いている起毛部分(※これは、吸い逃したゴミ、及び回転ブラシが後方に弾いたゴミを逃さないようにする為の物であるはずです)が邪魔をし、ゴミを吸い込めないことがあるそうですが、2013年度からはそれを解決する為に、起毛部分をヘッドを引く際にのみ回転する、現行機種では日立だけのローラー式となっています。
2014年度からはそれに加え、ヘッド両サイドに開いた横方向から吸引する為のすき間に、強く吸う為の "サイドブレード" という吸気の流路を調節する為の部品が設置され、横方向の吸引にも強くなっています。
これらにより、この "スマートヘッド" は、2014年度から "四方向吸引スマートヘッド" とも呼ばれています。
また、このヘッドは付け根の可動部が柔軟に動く為、ヘッドを横に90度曲げて縦にすることで、家具の間等の狭い場所に押し込んだり(「クルッとヘッド」)、ヘッドと延伸管をほぼ水平にまで出来ることで(「ペタリンコ構造」)、高さ8cm以上の家具の下等のすき間を、掃除しやすく出来ています(※⇒公式サイトによるヘッド機能の解説)。
▼ 吸込仕事率 (3)
この機種の吸込仕事率は、420W〜約50Wです。どちらかと言うと低いですが、一応の遠心分離をウリとするタイプとしては、標準的な範囲です。
▼ 清掃力 (4.5)
ヘッド性能は高いものの、吸込仕事率はそれ程ではないので、これ位だろうということで・・・。
▼ サイクロン部(吸引力持続) (2.5)
"パワーブーストサイクロン" は、構造的に遠心分離力が限られる1段サイクロンでしかないので、吸引力持続性能も高いということはないはずです。その為、メインフィルターには細かなチリが多めに届くはずです。
このシリーズには、それを補うために他メーカーの同様の構造の製品と同じように、フィルター詰まり防止用の振動式チリ落とし機構が設けられており、このシリーズの場合それは手動式です。その為、使用者が時々レバーを操作して、フィルターを振動させてやる必要があります。
しかし、そのフィルター振動機構ですが、シャープ製の「EC-PX210」やパナソニック・プチサイクロンが抓んで回すダイヤル式で、全体を比較的満遍なく振動させられるのに対し、この日立製パワーブーストサイクロンに採用されたのは、シャープの「EC-QX310」や東芝・トルネオミニに採用されている、円状のフィルターの片側に偏った位置にある振動用レバーを左右に動かすだけの、廉価的な仕組みです。そして、それを動かした時の手応えも薄いので、何とも頼りありません。
このシリーズでは "約1か月ゴミ捨て不要" だとされていますが、これらにおいてはそのゴミが溜まるダストカップ部こそが唯一の遠心分離部です。ゴミを溜めたままだと、その部分で空気が回る速度が落ちてしまいますので、サイクロン掃除機として好ましくありません。
また、吸込仕事率の最低値が50Wとなっていますが、その場合の消費電力は190Wとなっています。パナソニック製プチサイクロンや、シャープ製スクリュープレスサイクロンが、吸込仕事率50〜60Wで消費電力は300Wあることから、吸気の渦を作るのに多くのパワーを割いているとは考えられず、遠心分離力はあまり高くないと推測されます。
しかし、良い部分もありまして、サイクロンの中心部の筒型フィルターの網目が、シャープ製「EC-PX210」やパナソニック・プチサイクロンと並んで、目の細かいものとなっています。これにより、メインフィルターにまで届くチリが少なくなりますので、吸引力の持続には有利です。
▼ ゴミ圧縮 (3)
このシリーズでは、ダストカップは下へ向かってのすそ広がり形状となっており、また、内部中央の筒部分は下へ向かって尖った形状となっています。それらにより、ゴミを回転させながらダストカップ底部に押し付けることが出来るので、溜まったゴミは圧縮され、約1ヶ月間ゴミ捨てが不要だとされています。
しかし、似たような仕組み・吸込仕事率のパナソニック製パワープレスサイクロンでは、ゴミは最大約5分の1に圧縮できる程度です。
また、専用スクリューによるゴミの圧縮をウリとするシャープ製のスクリュープレスサイクロンでは、やはり1ヶ月に一度のゴミ捨てで良いとされますが、これは約15分の1にまでゴミを圧縮する結果だとされています。
なので、この日立製の性能は不可解です。特別な構造がないのに、本当にこの性能であれば、相当な発明だと言えるかもしれません。
▼ ゴミの捨てやすさ (2)
これはゴミ捨て時にはダストカップ底部が下に開く仕組みですが、底が開いた際には、ダストカップ中央に設置されている筒部分がバネ仕掛けで下に動くことで、溜まったゴミを下に押し出し、楽に捨てることが可能だとされています。
これは約1ヶ月ゴミ捨て不要だと言われていますが、しかし、それはダストカップに溜まるゴミのみの話で、メインフィルターに到達し、フィルター振動で下に落ちるチリは、東芝のトルネオミニと同じでダストカップには落ちません。なので、基本掃除毎にダストカップを取り上げてフィルターを取り外し、ダストカップごとひっくり返して叩いて落とす、もしくはフィルターを外してゴミ袋の中等で振動させて、チリを捨てなければなりません。
なので、"約1か月ゴミ捨て不要" というのは、詐欺的ですし、そもそもフィルター部のゴミを別で捨てなければならないことが、このシリーズの宣伝からは省かれています。
▼ ダストボックスの容量 (3)
この機種のダストボックスの容量は0.4Lなので、平均的です。
これは一応小型機だとされますが、実際は中型機ですので、それ位あってもおかしくはありません。
▼ フィルター (5)
この「CV-SA700」のフィルターは、高性能で有名なULPAフィルター相当ですので、性能はかなり良いです。0.3μm以上のホコリの約99.999%を捕塵可能だとされています。
(※ULPAフィルター[ULPA規格のフィルター]と呼ばれる為には、フィルターの単独性能として、0.15μm以上のホコリの99.9995%以上の集塵率が必要です。しかし、日立製の場合には、ドイツ・SLG社によって、本来の基準より大きなサイズのゴミを用いての、フィルター単独ではなく実機を用いた計測が行われている為、控えめな数値が出ているようです)
▼ 本体重量 (3)
この機種の本体重量は3.6kgなので、確かにサイクロン式としては小さめですが、紙パック式も含めると、普通程度だと言うことが出来ます。
ただし、本体前部・ホース付け根部に装着可能な "サッとハンドル" を装着すると、100g増しとなります。
▼ ヘッド+延伸管+ホース部重量 (3)
それらの重量は1.5kgですので、全体としては普通程度ですが、モーター式回転ブラシの機種としては軽いです。
ヘッドの回転ブラシの軸部分と、延伸管とに軽量カーボン素材を用いると共に(「カーボンライト」)、従来品より細くて軽く、表面が滑りやすくて取り回しの良い "スマートホース" を用いることで軽量化がなされたというのが、この機種のウリの一つとなっています。
ただし、日立製は手元ブラシ、もしくは延伸管先端ブラシとして使う "クルッとブラシ" が後付け式となっており、これが実は150gもあります。なので、もしかすると合計で1.7kg程度あるかもしれません。これだと現在では軽いとは言えません。
▼ 運転音(最大値) (5)
この機種の運転音は、54〜約49dBですので、現行型としては業界トップタイの静かさとなります(※⇒「音の静かな掃除機」)。
▼ エコモード (3)
この「CV-SA700」のエコモード(自動パワー制御)は、"床面検知" と、恐らくはその仕組みを応用した、ヘッドの操作速度等を検知する "操作力検知"、そしてヘッドを止めていると自動でパワーダウン⇒停止へと至る "アイドリング&ストップ" から成ります。
"床面検知" と "操作力検知" を用いて6分間フローリングを掃除した場合、「強モード」のみで同等の条件下を掃除した場合と比べて、最大約75%の省エネになるとされています。しかし、それは要するに、「強」と「中」が殆ど使用されず、ほぼ「弱」のみで運転された場合との比較を表しているはずです。
メーカーサイトには、エコモードと「強」で掃除した場合とを比べて、"ごみ取れ性能は同等です" とありますが、差は勿論あるはずです。
▼ 付属ブラシ類 (3.5)
付属ブラシ類は、通常のすき間ノズル("すき間用吸口")と、延伸管先端部か手元グリップ部のどちらかに接続して使うブラシ、"クルッとブラシ" 、そして高所・狭所用ノズルの "ワイド曲が〜るロング吸口" となります。
日立製の高額ヘッドは、ヘッド付根の関節が横に90度曲がることで、比較的狭い場所も掃除出来ます。なので、延伸管先端部はそちらに任せて、"クルッとブラシ" に関しては、手元グリップ部に付けておくのが、普通なのではないかと思います。
また、すき間ノズルについてですが、別売の "すき間用吸口ホルダー" なしでは、本体・延伸管に取り付けて保管することが出来ないはずです。勿論、そのようなことはどちらでも構わなければ、問題はありません。
▼ 特記項目 "サッとズームパイプ" (4)
この「CV-SA700」を含む、日立製の中程度以上の機種には、"サッとズームパイプ" という、足でヘッドを抑えて手元トリガーを指で引きながら、延伸管を伸び縮みさせて長さを調節する機能があります。これは、日立製掃除機に慣れた使用者が、同社製から離れられない要因となっています。
▼ 価格 (2)
この機種は、2014年度新登場の新型機ですが、最安値はどうやら3万5千円強ということになるようです。
▼ 総合評価 (3.43)
この「CV-SA700」は排気性能が非常に高く、運転音もヘッドも優秀で、ヘッド+延伸管+ホース部も軽くて良いのですが、サイクロン部に関してはトルネオの廉価版シリーズのトルネオミニとほぼ同一です。
ただし、トルネオミニのダストカップが本当のカップ型であるのに対し、こちらの場合は、ボタンを押すと底が開くタイプで、ゴミを落としやすくするための仕組みも付いています。しかし、根本的にカップ型の方がゴミをそっと捨てることが出来るので、そちらの方が排気のきれいな掃除機には相応しいでしょう。
また、約一か月ゴミ捨て不要だと言われていますが、吸引力を持続させようと思えば、毎回フィルター部に溜まるゴミを捨てなければなりません。フィルター部に溜まるチリがダストカップに落ちるタイプであれば、毎回捨てる必要はありませんので、その分不便ですし、詐欺的に感じます。
ただし、酷い物という程でもありませんので、日立ファンの方には良いかもしれませんし、実のところ、パナソニックのサイクロン式に中型機がないので、その分で命拾いしていると見ることもできます。
当「CV-SA700」と、前年度型「CV-SY7000,SY500」との違い
CV-SY7000 (大型) | CV-SY500 (小[中]型) | CV-SA700 (小[中]型) | |
発売日 | 2013年7月20日 | 2013年8月24日 | 2014年7月19日 |
ヘッド | スマートヘッド | (新)スマートヘッド | |
吸込仕事率 | 470〜約50W | 400〜約50W | 420〜約50W |
消費電力 | 1,000〜約200W | 950〜約190W | |
サイクロン構造 | 2段ブースト (※遠心分離のフリ) | パワーブースト (※一応の遠心分離) | |
運転音 | 52〜約48dB | 57〜約53dB | 54〜約49dB |
本体/全体重量 | 4.8/6.3kg | 3.6/5.1kg | 3.6/5.1kg |
集塵容積 | 0.4L | 0.25L | 0.4L |
排気方法 | 分散上方 | 上方 | |
ダストカップ 静電気防止加工 | × | 〇 |
まず、この機種はそれらの前年度型のどちらの後継機なのかと言うと、実は両方です。
ただし、どちらかと言えば、ボディサイズが同等の「CV-SY500」で、大型(従来の通常サイズ機)の「CV-SY7000」は、その系統ぐるみで廃止ということになります。
"スマートヘッド" の新旧の違いとしては、新型では吸引口後部に付いているヘッドを引く際にのみ回る起毛ローラーが、旧型のように二つに分かれ、中央はローラーが途切れている中途半端なものではなく、吸引口の横幅全体をカバーする立派なものとなっています。
また、ヘッド両サイドに開いた横方向から吸引する為のすき間に、強く吸う為の "サイドブレード" という吸気の流路を調節する為の部品が設置され、横方向の吸引にも強くなっています。
昨年度型2機種との一番大きな違いとしては、勿論 "2段ブーストサイクロン" ⇒ "パワーブーストサイクロン" にサイクロン方式が変更されたことです。
名前は派手ですが、勿論それらは日立が売れやすいように付けただけで、"ブースト" というのは、空気の流路が狭くなる部分で吸気が加速し、遠心分離、もしくはゴミを圧縮する効率が上がるという意味となっています。
"2段ブーストサイクロン" は、一応の遠心分離を行っていても、たまたま分離された微細なゴミも結局はフィルターを通ることになり、また、ゴミが溜まってくるとそのフィルターに直接ゴミが流れやすくなる構造だったので、まともなサイクロンではありませんでした。
今年度からの "パワーブーストサイクロン" は、一応まともな遠心分離を行いますが、サイクロンは単純な一段式で、遠心分離効率は構造的にパナソニック製とシャープ製と並んで低く、ダイソンや東芝とは比べられないサイクロン性能でしかありません。
また、小型機としての前年度型「CV-SY500」では、集塵容積が少なく難がありましたが、今年度型ではそれが改善され、しかもゴミ圧縮性能が高いとされていますので、一軒家でも使いやすい製品に改良されたと思います。
運転音も、そちらより3dBも改善されており、実際はそちらのモデルチェンジ後に派生した、僅かながらに静音仕様の新登場の上位機種、という位置付けとなっています。
パワーブーストサイクロン 下位機種「CV-SA500」との比較
CV-SA700 | CV-SA500 | |
吸込仕事率 | 420W〜約50W | 410W〜約50W |
運転音 | 54〜約49dB | 55〜約50dB |
当機種と下位機種「CV-SA500」とは、吸込仕事率で10W運転音で1dB違うだけです(ボディカラーも、こちらの方が少し濃いようですが)。
…ここまでして取り扱い機種を増やしたいのかという、謎のラインナップ設定です。
※価格は変動します。時価はリンク先にてご確認下さい。
・CV-SA700 パワーブーストサイクロン | |
・楽天 ・amazon [レビュー有] ・楽天レビュー:レビュー(_件)を参照 ・ヘッド形状:スマートヘッド(自走式) ・目詰まり対策:手動式フィルター振動機構 ・吸込仕事率:420W〜約50W[エコ自動モード有] ・本体重量:3.6kg/ 全体重量:5.1kg ・運転音:54〜約49dB ・排気方法:上方排気 ・持ち手(本体):固定式×2 ・すき間ノズル収納:なし ・色:ディープレッド(R)、ディープシャンパン(N) ・ULPAフィルター(と同等)仕様 ・ワイド曲が〜るロング吸口付属 | |
関連ページ:
・CV-SC700 パワーブーストサイクロン(2015年度型後継機種)
・CV-SA500 パワーブーストサイクロン(下位機種)
・CV-SY500 2段ブーストサイクロン(前年度型)
・CV-SY7000 2段ブーストサイクロン(前年度型/大型機)
関連サイト:
・サイクロン式クリーナーCV-SA700、CV-SA500、CV-SA300 新商品ニュース|日立公式サイト