「なんちゃってサイクロン」という言葉は、日本のサイクロン掃除機が事実上サイクロン掃除機とは言えないにもかかわらず、サイクロン式を名乗っていることを面白おかしく表現した言葉です。
(※スウェーデンのエレクトロラックス社とアメリカのブラック&デッカー社も「なんちゃってサイクロン」の製造元です。なので、日本特有のものという訳ではありません。ちなみに、どこが最初につくり始めたのかまでは分かりません^^;)
もっとも、なんちゃってサイクロンを語ろうと思えば、まずは本物のサイクロン式掃除機に触れなければなりません。
家庭用のサイクロン式掃除機というのは、ダイソン社の社長、ジェームズ・ダイソン氏の開発品です。紙パック掃除機の紙パックがゴミを吸うにしたがって吸引力が低下するのがどうにかならないかと、業務用の集塵機を参考にして、この方式を採用したのだそうです。
その原理は、遠心力による空気からのゴミの分離です。一度舞ったら数時間後にしか床に落ちないようなホコリを遠心力でどうにかしようというのですから、発想も、そして実際に必要とされる遠心力も半端なものではありません。
その遠心力を実現するために、ダイソンは多段サイクロン式を実現しています。DC12その他DC22を除くダイソンの型番は二段階サイクロン式で、クリアビンと呼ばれるビーカーのような透明のゴミカップでまず第一のサイクロンを作り、そこを通り抜けた空気はその上で幾つかの小さく、より高速なサイクロンを形成し、ゴミを空気から分けています。
サイクロン掃除機というものは、現状においてダイソン製でも不完全なのですが、そのように遠心力でゴミを空気から分離するため、フィルターは別になくても構わない、そのような到達点を想定して開発を行っているもののことを指すと考えるのが、シンプルなのではないでしょうか。
ちなみに、ジェームズ・ダイソン氏は、当初開発に成功したサイクロン掃除機の特許料で収益を上げたかったのだそうですが、それが上手く行かず、結局自分で掃除機本体も製造する道を歩むことになったのだそうです。
勿論、サイクロン掃除機がここまで市場を広げる予測は誰にとっても困難であったかもしれませんが、遅れを取ることになった日本の有名家電メーカー達は、根本的には自業自得なのです。今後はこんなことにならないように、何とかしてもらいたいものです。
(※結局ロボット掃除機の「ルンバ」や、ダイソン「DC62」やエレクトロラックスの「エルゴラピード」という高額コードレスクリーナー、更にはこれまたかなり売れている、布団用ハンディ掃除機の「レイコップ」でも後れを取ることになりました・・・)
では、「なんちゃってサイクロン」の国産サイクロン式とは何なのでしょうか?
国産サイクロンも一応空気を回してその遠心力を利用する形を取っています。しかし、その利用法はダイソンとは少し違います。
まず、国産サイクロンではフィルターを使ってゴミを取り除くのが原則です。
ただ、フィルターの利用法にもコツがありまして、全面にまんべんなくホコリが付いてしまうと早くフィルターが詰まって空気が通らなくなってしまいます。
しかし、フィルターの端っこの方からゴミを厚く積んで詰めて行くという器用なことが出来れば、フィルターは長持ちします。そして、それを遠心力を使って実現する、つまり遠心力を利用してゴミをフィルター部の隅っこに集めて積んでゆくことを実現したのが、国産のサイクロン式掃除機なのです!
もちろん、ゴミがフィルターを全部塞ぎかねない地点まで迫ってくると、その辺りにゴミ捨てラインなり、ゴミ捨てセンサーなりがありまして、ゴミを捨てることになります。
なので、実のところ、この種の掃除機はフィルター式掃除機という紙パック式掃除機が発明される前にあった方式の掃除機に、遠心力を利用して少し便利にした方式ということになります。
また、この方式だと、昔にはなかったであろう質の良いティッシュをフィルターの前にはさんで、「ティッシュフィルター式」にすることもできます。
ただ、国産サイクロンでも皆少しづつ方式が違いまして、シャープのサイクロン式掃除機は「本物」扱いされることがあります。
その理由は、ダイソンのようにビーカーに似た容器の中でゴミを回すからのよう・・・。
しかし、実のところ、ゴミを回すだけなら激安で有名なサイクロン式掃除機「サイクロニックマックス」やツインバード(日本の安物家電メーカー)でも可能です。多分シャープを褒める方々には、そんな安いものは見えていないのではないでしょうか(工作員ももしかしたら・・・)。
他でも同じことをやっているなら、ではなぜシャープ製は優れていると言われるのでしょうか?
シャープにはサイクロン式の周辺特許があると言われているのですが、サイクロニックマックスや、ツインバードのサイクロンとシャープのそれを比べるに、シャープに実際に特許があるとすれば、ダストカップの上にフィルターを被せるやり方ではないかと推測されます。そのやり方だとフィルターに付いたゴミが、やはり上から下へということで落ちやすいのだと思います。
当然ダイソンだとそこには第二のサイクロン発生スペースがあるのですが、それこそ特許(これが「ルートサイクロンテクノロジー」というもののようです)で真似できないので、そこにフィルターを付けて、サイクロン式とフィルター式のハイブリット式(複合式)にしているわけです。
そして他の国内有名メーカーたちは両方真似できないので、同じようなもので劣るものを作る訳にも行かず、サイクロン方式を援用したフィルター方式を使い、何故か「サイクロン式」と名乗って売っているということのようです。(笑)
では、そのシャープ方式のサイクロンはダイソンと比べるとどうなのでしょうか?
実はダイソンが自社を含めた各社のサイクロン式掃除機の、サイクロン部の外に漏れるホコリの量を測ったデータを公表しています(以前のカタログに載っていた「大本営発表」ですが)。
※社名はイニシャルからの推定です。また、各社の使用機種は不明です。
※実験時において、ダイソンとシャープ以外はサイクロン部=第一フィルター部となり、サイクロン部の性能というより、第一フィルター(メッシュフィルター)の細かさの問題となります。また、ティッシュを挟むと数値も変わるはずです。
※実験にはタルクという粘土鉱物の一種が使われていますので、恐らくホコリより重く、ゴミを空気と共に回し続ける本来のサイクロンには有利と思われます。
※ダイソンとシャープの勝負に関しては、方法としては一応公平と思われます。
・・・シャープは他の国内メーカーよりこの実験においては倍以上優れていますが、ダイソンには30倍負けています。(笑)
倍違えば結構違いますが、それでも30倍の前では「2倍以上」では霞みまくりです。
ただ、他の国産機とは倍以上違うだけでなく、フィルターのホコリの落ちやすさも、上から被せる方式と、地面に対して直角に立てた方式ということで、実際はよく分かりませんがとにかく原理的には有利です。
そういういう訳でシャープ製サイクロン式掃除機は、国産サイクロンの中では一番の人気を誇ります。
ただ、実のところ掃除機にとって重要なのは、本物のサイクロン式であるかなどではなく、掃除機としての総合的な出来栄えです。
ダイソンは、「未完成の本物のサイクロン掃除機」ではありますが、使い勝手に関してはいつも疑問を持たれています。
重い、フローリングに弱い、ホースがフニャっと折れる(折れるだけでは済まなかったり・・・ )、煩い、隅に弱い、大きめのゴミは吸い逃す、などなど気に入らない人には不満を言われまくりです。
逆に、例えばティッシュをフィルター前に挟む「ティッシュフィルター式」は、一見セコい方式に見えますが、ゴミを捨てやすい、つまりは使いやすいと結構人気があります。
その点、幾らダイソンはフィルターが詰まらないと言っても、ゴミを捨てる時はベランダや外でないと出来ないと言われる不便なものですので、「掃除機」としてどちらが良いと思うかは人それぞれなのかもしれません。
しかし、そうであっても国産サイクロンは本当はサイクロン式掃除機とは言えないのに(シャープも取り除くのが難しい細かいゴミの方はフィルター任せです)、「サイクロン掃除機」と恥ずかしげもなく名乗って商売しているのは現実の話です。
それにも関らず、完全に馬鹿にされるのではなく、「なんちゃってサイクロン」などという愛嬌のある名前で呼んでもらえるのは、国内家電メーカーが基本的には好かれているからなのかもしれません。
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関連サイト:
・掃除機をサイクロンに サイクロン集塵機(cvfの工作教室)