イギリスのサイクロン掃除機のメーカー、ダイソン社が国内有名メーカー製のサイクロン掃除機との比較広告を出しています(※2008年時に当記事を作成)。テレビCMで、「ダイソンは他の掃除機に比べて2倍ゴミを取れると第3者機関によって証明されました」などと言っているのを聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
ただ、あの物言いには品とセンスが欠けているので、大抵の人は本当だったら凄いと思いつつも、どこか胡散臭いと感じるのではないでしょうか。
そこで、こういうサイトの管理人として一応調べてみることにしました。
以前の一時期、ダイソンの公式サイトのトップページにそういったことが書かれていたのですが、現在は価格.comにその特集が残っていて見ることができます。
まず、何となくCMを見たり話を聞いた方は、あの第3者機関によるとされる調査はフローリングでのものだと思っていらっしゃるのではないでしょうか?
注意深く見た人はご存知と思いますが、あれは「フローリングの溝」での実験であり、フローリング上でのものではありません。
私の家にも3種類のフローリングの床がありますが、2か所はほぼ溝などありません。残りの1か所も、幅1ミリ、深さ0.5ミリ程の溝があるだけです。どこのご家庭でもそんなには大差はないのではないでしょうか。
そんなところでゴミの計測など本当に正確にできるのかと疑問に思いますが、実験の条件を調べてみると、意外なことが分かりました。
何と、実験に使われる溝は幅3ミリ、深さ1センチもの溝だったのです。恐らくそういう溝のある部屋は、「フローリング」ではなく「板の間」と呼ばれるような場所なのではないでしょうか。少なくとも実験の行われた環境は、日本で普通に言うところのフローリングではありません。1センチもの深さの溝がある環境など、現在の日本の普通の家屋ではサッシの溝位しかないのではないでしょうか。
更に分かったのは、実験で掃除機に吸わせたのはホコリではありません。「鉱物」の「けい砂」つまり砂です。大きさも決まっていまして210マイクロメートル(1mmの約5分の1)と74マイクロメートルのものを混合したものです(割合までは決まっていないよう)。
そしてそれを50gです。そんな大きさの砂を50gと言ってもどれだけか分かりにくいのですが、表を見るとダイソンのダストカップのちょうどゴミ捨てラインに達する量のようです。
・・・家の中でも靴を履く国の人達には分からないのかもしれませんが(少なくとも日本のスタッフは知ってるはず)、日本の掃除機は大量の砂や粉は吸い込めません。勿論吸うこと自体は出来ますが、説明書にそれは止めて下さいと書いてあります。それなのに、ダストカップが一杯になるほど一度に吸わせています。
更に・・・実験で掃除機の機体を用意する際には、新品同様の状態で用意するようですが、実は実験前にデータを取らずに2度同じ工程を行い、掃除機の中を平等にある程度使った状態にするという話です。そして、実験は同じことを2度行い、平均値を出すということです。
つまり、4度も砂をダストカップが一杯になるほど吸わせているんです。
そこのところが、実験を始める段階からダイソンのDC22がほぼ100%で、東芝が25%程度のゴミ集塵率になっている秘密のようです。つまり実験前に吸わせてはいけないものを吸わせて、虫の息にした状態から実験を始めてるわけです。(笑)
仮に日本の掃除機に砂を吸わせてはいけないことを知らないにしても、サイクロン式のフィルターであれ、紙パックであれ詰まって殆ど吸わない状態にあれば、フィルターを洗ったり、紙パックを取り換えたりするものです。それはダイソンでも同じでしょう。
つまり、普通の人が使えば、最初の10秒で吸わせるのをあきらめて、メンテナンスに取り掛かり、最初位はダイソンと同じように吸う状態にしてから掃除を始めるはずです。そして時間は幾らか余分にかかっても、掃除は一応無事終わるでしょう。なので、ダイソンが発表している変なビーカーのイメージ図は無意味です。
なので、この実験は、とりあえず掃除機が砂を吸った場合の吸引力の持続性を示すとしか言えないでしょう。ただ、日本の屋内では、砂ゴミはなくても、よく分からない粉ゴミはホコリに交じって出ますし、それがフィルターや紙パックの繊維を詰らせる原因のはずですので、ダイソンのサイクロンは、そういった細かいゴミに比較的強いだろうとは言えるだろうと思います(…そもそもサイクロン部で生じる遠心力がとても強いのです)。
実のところ、この実験、確かにJIS規格(最初の検索ボックスで「C9802」を検索)で規定されているものなのですが、実はこれが国際規格を翻訳して取り入れたものであり、結局日本の実状に即さないので、今まで取り上げられることもなかったのではないでしょうか。
なので、一応日本でも認められている方法にのっとっているのは確かですが、問題があるのは当然前もって分かる話です。言い訳がたてば良いという話ではありません。
しかも、現実は無意味を超えて無意味です。なぜならダイソンのカタログには「デリケートな床材のお掃除にはブラシの回転をOffにしてご使用いただけます」とありまして、事実上傷が付くのが嫌ならダイソンのmotorhead(モーターヘッド)をフローリングや畳で使うことは出来ないのです。
つまりのところ、「DC22 ddm motorhead」を普通に(回転ブラシを回して)溝とは言え、フローリングで使ってデータを取っても、それで使用者にどうしろというのかという話なんです(傷がつかないというデータを取るならともかく)。CMを見て喜んで使って自宅の床に傷が付いたら自己責任です。ダイソンが責任を取ってくれるという話はありません。
勿論、そもそもダイソンの故郷、イギリスは室内でも土足ですから、日本流の表面がツルツルなフローリングはないはずです。
ダイソンの「DC22 ddm motorhead」であれば、多少の知識のある人なら普通は絨毯での使用を思い浮かべます。この掃除機は、この世界の常識として絨毯に強い掃除機なのです。なのに何故敢えてフローリング、しかも普通のフローリングではなく、フローリングの溝での集塵率を比べようとしたのでしょうか?
実は伏線らしきものがきちんとありまして、数年前の国民生活センターによるサイクロン式掃除機の性能実験で、ダイソンはフローリングにこぼした小麦粉を唯一ヘッドの一往復で吸い取ることのできない掃除機としてほぼ名指しされてしまったのです。
その知る人ぞ知る悪評を、「フローリングの溝」を使ってそれをフローリングの話と混同させて見事にひっくり返すと同時に、ダイソン製掃除機を吸引力が長持ちする掃除機としてではなく、日本製サイクロンより数倍ゴミを吸う掃除機であるかのように消費者に印象付ける、それが目的だったとしか思えません。
実際、砂が深い溝に入っていなければ、弱った日本製でも吸い上げた可能性があります。
また、吸い上げなくても回転ブラシ内部に巻き込んで、床に残る量が減った可能性があります。
「他のどの掃除機よりゴミを吸う、ダイソン第三者機関が証明」
恐らく、その第3者機関がまともなものであれば、証明はしていません。なぜなら日本の掃除機の説明書を読んでいないからです。さすがに実験を引き受けるような組織が、説明書も読んでいないのに証明なんてしないでしょう。きっとダイソンが実験結果をもとに勝手に「結果が証明した」=「第3者機関が証明」と言ってるだけです。
「このテストはカーペットなどの床でも実施され、ダイソンにおいて同様の順位が得られた」
実のところ、JISで規定するところの電気掃除機の吸引力に関する項目では、壁際集塵に関する項目もあります。そしてダイソンは壁際に弱いことで有名です。なのでそういう都合の悪い実験はしていないのでしょう。まあ「壁際」とは床質ではないとかそういう話になるのかもしれませんが。
しかし・・・
掃除機に関しては、実のところダイソンだけが特に悪いという訳ではありません。ダイソンの掃除機であれば、まだ気に入って使う人も結構多いからです。
ダイソンの掃除機のイメージを借りて「サイクロン式だから吸引力が落ちにくい」などと虚偽の宣伝をし、すぐにフィルターが詰まる掃除機を「サイクロン式」の名で売りまくった極悪メーカーの数々が、いまだ日本のどこかに罰せられることもなく潜んでいます。(笑)
しかも、フィルターがすぐに詰まるとばれるや否や、○年間フィルター掃除不要などと謳ってやはり時々のフィルター掃除が必要なサイクロン式掃除機を売り始めました。そしてその嘘もバレると、今度は○年間フィルター掃除不要という文字を引っ込めてしまいました。一体「ダイソン式サイクロン掃除機」のイメージを利用してどれだけの人々に面倒なフィルター掃除を強いたのでしょうか?(笑)
「空気がクルッと回ればサイクロン」
日本のメーカーがやってることはその程度のことです。しかも、皆揃ってカタログには勝手に「一般にサイクロン掃除機はフィルターのこまめな掃除が必要です」などと書いてます。業界ではそうなのかもしれませんが、一般には遠心力でごみと空気を分けるので、フィルターだって"理論上では"必要ないのがサイクロン式というものでしょう(まあそこは発明者のダイソンさんに決めていただいて結構ですが)。
どっちもどっちなので、キツネとタヌキの化かし合い、と言いたいところですが、本人達で化かし合うのではなく、人間(消費者)を化かしての化かし合いです。ブラウン管テレビの「次世代テレビ」の液晶テレビとプラズマテレビも酷いものでしたが、あれはまだ店頭ではっきり確かめてから買うことができます。しかし、掃除機のフィルター掃除など、家で使ってみなければ分かりません。何ととんでもない話でしょう。
実のところ、ダイソンのようなサイクロン(あれは多段&複数並列サイクロンです)ではなく、ただ空気が回るだけなら全くのローテクです。洗面所で栓をして水を一杯に溜め、栓を抜いてやると水は渦を巻きます。あれを空気でやるとサイクロンなんです。もっとも水が抜けてゆくだけでは十分な遠心力が生じないので(フィルターもないし)、サイクロン式掃除機のようには行かないのですが。
なので、偽物のサイクロン式掃除機であれば、モーターさえあれば(…+それなりに一式)、夏休みの工作でだって作れます。もっとも性能は・・・それでもモーター次第ですかね。(笑)
もちろん、偽物のサイクロン式掃除機であれ何であれ、それぞれが気に入った物を買って使えばそれで良いのですが、この変な騒動に関わりたくないと思えばどうすれば良いのでしょうか。
それはズバリほどほどの価格の紙パック式にすることでしょう。純正の紙パックを使ってメーカーを儲けさせるのが気になるのであれば、あまり掃除機に良くないかもしれませんが、「全メーカー共通紙パック」のようなものを使うのも良いでしょう。
という訳で、ダイソンのCM・比較広告問題特集でした。
関連ページ:
・ダイソンの吸引力の真相(その後のCM問題有)