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ダストピックアップ率の欺瞞

輸入品の掃除機が増えると共に、掃除機の性能を表す単位として従来からあった吸込仕事率に代わり、ダストピックアップ率(≠集塵率)が注目されています。

そして現在、ダストピックアップ率こそが吸込仕事率に取って代わるべきとでも言いたげな論調も目立っています。
確かに、吸込仕事率は万能ではないでしょう。それは掃除機がホースの先から空気を吸い込む力の強さを表すに過ぎないからです。
しかし、そのダストピックアップ率が高いとされるダイソン製品のヘッドを見たことがある人なら、素朴に疑問を持つものと思います。
あれは日本人の常識からして、室内を掃除するようなものには見えないのです。

「ダストピックアップ率」というものは欧米から来た基準です。そして普通に「ダストピックアップ率」という場合には、掃除機の絨毯上での集塵性能のことをいうようです。
実際のところ、2006年の国民生活センターの実験によると、ダイソンのDC12は実験参加機種中唯一フローリング上の小麦粉をヘッドの一往復で吸いきれないと指摘されています。それでもきっとダイソンはこの機種をダストピックアップ率の高い掃除機(つまり、日本の世間的には、ゴミをもの凄く良く吸う掃除機)として売り込んでいたのでしょう。

また、ダストピックアップ率の正式な測り方は、床に既定の量・質のゴミを決められた方法でばら撒き、掃除機を一定時間かけるというもののようです。
しかし、そのゴミ質が問題で、実のところ砂を吸い込ませて性能を図っています。しかし、家の中では靴を脱ぐ日本の掃除機は、家の中で砂を多く吸うなどということは通常では考えられす、また、(その必要がないので)元々の性能として砂を大量には吸い込めません。
つまり、「ダストピックアップ率」を測る実験の方法は、日本の家屋を考慮に入れて作成されたものではないのです。

ところで、カーペットの毛の間奥深くに入り込んだホコリを効率よく取り出すにはどうしたら良いでしょうか?
ずばり、ヘッドのブラシを固くすることで、より強くカーペットの毛を掻き分け、ゴミを掻き出すのです。
実際、ダイソンDC22のモーターヘッドの回転ブラシはもう少し強化するとタワシになるようなものが付いています。そしてそれを高速回転させることで、カーペットの毛を強く掻き分けるのです。
ダイソンでもタービンヘッド式であれば意外とおとなしいブラシが付いています(※現在DC22のタービンヘッドのブラシは硬いものに変更になってます)。
しかし、一番強烈なのはDC12 entryのヘッドについているブラシです。あれは殆どそのままプール(の底)掃除に使えるようなものなのです。
実際普段掃除をし終わった後に、タワシのようなもので絨毯を強く擦って回れば、掃除の後でもさぞホコリが立つだろうと思われるものと思います。そしてその種の乱暴さで立てたホコリを、掃除機の吸引力で吸い取るのです。ダイソンの「ダストピックアップ率の高さ」というのは実のところ、そういうものなのです。
勿論あのようなもので畳やフローリングの床を掃除するわけには行かないと思います。実際、ダイソンのカタログには「デリケートな床材のお掃除にはブラシの回転をOffにしてご使用いただけます」(DC22 motorhead)とあります。
つまり、デリケートな面を持つ床であのブラシを使うとやはりマズいのです。
どうやらDC12 entryのブラシは「ハードフロア」なる床用で、絨毯の上で使用するものではないらしいのです。しかし、日本でハードフロアと言うなら、それはほぼフローリングを指すはずですが、あれはちょっと使っただけでフローリングが傷だらけになるような代物です。
ならば、どこで使うのかと言うと、要するに土足で歩く非絨毯の硬い床用なので、日本では使える場所が普通の家庭にはないのです。
日本の一般家庭では使える場所がほぼないと分かっていて、改良もせず、説明もせずに売るのはちょっとどうかと思います。
では、ならばどうしてDC12 entryでもそれなりのダストピックアップ率が出るらしいのかと言うと、日本製の掃除機のヘッドによく付いている小さな車輪がないのです。また、前にあるゴミを吸い取るためのすき間もありません。そしてそれらの分でヘッドが床に密着し、その上で、ヘッド中央の前後に1本づつ配置した幅10cm程のエチケットブラシでゴミを強引に掻き取ります。

entry_1.jpg entry_2.jpg
entry_4.jpg entry_5.jpg
entry_6.jpg ブラシを出した状態
ヘッドだけ購入しました(5,250円)。最後の写真だけブラシを出した(床面まで下げた)状態となっています。
日本製であればフローリングで出して使用する、柔らかいブラシがある箇所に使えない硬いブラシがついており、しかも、通常ヘッドの両端にある小さな車輪がありません。そのため、底のプラスチックが直接フローリングを擦ることになり、砂利等の鋭利な固形物が落ちている場合には、引きずって床を傷つける可能性も高いはずです。

ミーレ用ヘッド1 ミーレ用ヘッド2
これはミーレのS4000シリーズ用ですが、やはり同じ構造です。小車輪はなく、床用ブラシは日本のピカピカのフローリングでは使用できません。
恐らく、エレクトロラックス製も同じでしょう。
2012年2月に発売となったエレクトロラックス社の日本向け開発モデル「エルゴスリー」の、少なくともモーター式回転ブラシを装備した上位2機種であれば、ヘッド裏に車輪がちゃんと付いていますし(家電Watch)、回転ブラシも硬すぎず、ダストピックアップ率も77%と高い数値を出しています。
また、ダイソンもDC26の後期型以降は、硬い回転ブラシは絨毯専用となり、床には届かない設計とした上で、フローリングには静電気除去の効果もある、専用の柔らかいブラシが当たる設計となっています。なのでやはり海外勢も、日本の状況に徐々に合わせて来ています。…ミーレは変わっていないはずですが。

また、ヘッドの構造自体は極めて単純なので、間違いなく普通のメーカーであればどこでも作れるレベルであるはずです(…硬いブラシは柔らかい物に変更の上で)。しかし、あのように作ってしまうと、固形物は弾いて吸えませんし、小さな車輪がない分でヘッドがスムースに動かず、操作性が悪くなります。そして、それらで結局は評判が悪くなります。なので、日本のメーカーは、どこもああいうヘッドは作ろうとは思わないのだろうと思います。
海外メーカーの場合は、海外製だから日本製と使い勝手が違って当然、と一種の「特権」で大目に見てもらえるのと、高級品(として売っている)なのだから、こういうものはこうなのだろう、と変に納得してもらえる面があるのだろうと思います。

そもそも欧米には畳はありません。そしてイメージ的には欧米の発祥に思えますが、フローリングの床(ピカピカのやつ)も実は日本発なのです。だから、向こうの製品にしても、それらの床質を考慮して作られているわけではないのです。
また、絨毯は普通に考えて欧米の方が普及していると思えますが、実は日本のものとは決定的な違いがあります。
向こうでは室内も土足で、絨毯にも土足で上がるのです。つまり、向こうの絨毯は、靴の裏に泥が付いていたり石が挟まっていたりする酷い状態でその上を走りまわっても、何十年かもつような丈夫な製品なのです。
しかし、日本では誰も絨毯の上を土足で走るなど考え付きません。最悪でも、泥棒が土足でそっと歩くことを考える程度です。だから、常識的に考えて、欧米の絨毯と日本の絨毯を同じ基準で考えてはいけないのです。

また、日本の掃除機のヘッドの回転ブラシは、フローリングでも基本的に使用可能です。たまにフローリングに傷がついたと文句が出るようですが、勿論それはクレームの対象となるでしょう。
フローリングでは使えないなら、フローリングでは使えません、使っても保証できません、と前以てはっきりさせなければならないでしょう。
しかし、そういった話はいまだ聞いたことがありません。
そして、最近は自走式・自走アシスト式の掃除機のヘッドが増えていますが、モーター式のものは回転を止めると重く感じて、実のところ使う気になれないのです。
ダイソンのものには自走機能がないので使用感は元々重いのですが、それでも回転を切るともっと重くなります。日本の製品はそのあたりも考慮するので、やはりフローリングや畳でも快適に使えるものを作っているのです。
なので、その辺りの快適さと、「ダストピックアップ率」というのは両立しにくいのですが、日本製は快適さを優先し、絨毯を強く掻き分ける能力も、可能な範囲で出来るだけ強くするという方針を取っていると思われるのです。
そもそも、絨毯を無理に掻き分けてホコリを根こそぎ掃除する必要まではないのです。掃除機をギュッギュッとかけて、それで取れるホコリを取ってしまえば、絨毯上でプロレスなどせず普通に暮らしている限り、ホコリなどそうそう出ないのです。
それに室内も土足の欧米に対し、靴を脱いで室内に上がる日本では、不快なものが絨毯の毛の間に溜まる心配も少ないはずです。

実際、単純に吸引力を測るのではなく、ゴミがどのくらい取れるのかを測るというのは良い考えだと思います。畳や床を傷つけず、絨毯からホコリを取り除くという能力での競争も普通に成り立つはずです。
しかし、ここ日本では、それは日本の住宅事情を考慮したものでなければなりません。なので、単純に外国でダストピックアップ率がこういう高いレベルの製品ですよ、と掃除機持ってきても、良い掃除機であるかどうかは何とも言えないのです。

国内メーカーはダストピックアップ率は一切発表していませんし(例外として「GAIS」というマイナーなメーカーがスティックタイプの一機種について公表しています)、恐らく正式に計られたこともないだろうと思います。

関連ページ:
ダイソンのCM問題
吸込仕事率とは
ミーレ・オキシジェン・ダイソン比較(海外掃除機のダストピックアップ率比較あり)

関連サイト:
ほこり 繊維と土砂が主な発生源(朝日新聞アピタル)


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